分子動力学法を用いた材料強度・機能のミクロ評価


新物質・機能素子研究部門 齋藤賢一,新家昇

(工学部 機械工学科 (材料工学研究室))

1.はじめに

現代社会では様々な種類の材料が機械や構造物に用いられており,それらの特性も複雑さを増す一方である.種々の材料を安全に長期間に渡って利用し続けるために必要なのが,材料強度の評価の技術であり,これまで広範な研究や応用がなされている[1].しかし,破壊・変形といった現象の全貌は明らかにされておらず,材料のミクロ組織(マイクロストラクチャー)に大きく依存することを考えると,究極的には結晶構造や電子構造などのミクロな視点にたどり着く.また昨今,ナノテクノロジーに基づいて組織のより一層の微細化が進められ,さらに例えばカーボンナノチューブのように材料要素そのものがナノサイズである機能的な新材料が開発されつつある.これらの傾向は,材料をミクロの視点から眺め直す必要性を提起している.従来の応力・ひずみの測定に代表される連続体力学の視点つまりマクロな視点からの材料評価の方法に加えて,物質の基本要素である原子や分子の動きをじかに調べるミクロな方法が求められるようになった.

分子動力学(Molecular Dynamics: 以下ではMD)法はそのような視点を持った,計算機を利用する原子シミュレーション法の一つである[2].簡単に言えば,原子間の相互作用力を仮定したポテンシャル関数から導き,古典力学の基本概念であり良く知られたニュートンの運動方程式を各原子について立てて,それらを時間方向に解き,結果として時々刻々の各原子の運動状態を求める手法である.このMD法を用いることで,上記の新しい視点を持った材料強度評価が可能になるという手応えが最近の研究で得られてきた.

(以下省略)

関大ORDIST 技苑11月号より抜粋)